法要のしきたり仏壇
 
 仏壇はご本尊や先祖を祀る場所であり、故人の魂が帰ってくるところ。つまり、極楽浄土と現世をつなぐ入り口とされて、仏さまの住む世界である「須弥山」をかたどったものといわれています。須弥山の語源はスメールつまりヒマラヤで、世界一高い場所から見守ることを表しているのです。仏壇の起こりは、仏教を奨励した天武天皇が「仏舎を作り仏像と経文を置いて礼拝せよ」という意味の詔を発布したことで、各地の貴族が持仏堂を建設。それが仏間になり、鎌倉時代には仏壇の形になって普及し、江戸時代には一般庶民に浸透したといわれています。

 その意味からも、仏壇は家庭内の小さな寺院であり、仏様の屋形。仏様の教えを通じて日常の問題に対処したり、幸せを願う、そして、ご本尊を通じて先祖の供養をするのが仏壇の役割です。それゆえ、古くから心の拠り所として大切にされてきているのです。仏壇の購入時期は、一般に四十九日忌法要のころ、故人の命日、盆、彼岸、法要を営む時期、新築時などが多いようですが、この日までに購入しなければいけないという決まりはありません。しかし、仏壇は故人の魂が極楽浄土と行き来する場所ですから、できるだけ早い時期に購入したいものです。
 
 初めて仏壇を購入するとき、多くの人が宗派による仏壇の違いを考えることでしょう。実際に、ご本尊や仏具は宗派によって異なる場合もありますが、この宗派にはこの仏壇というような絶対的な決まりはないようです。もし、宗派が気になるようでしたら菩提寺や仏壇の専門店に相談するのがよいでしょう。
 
 仏壇は大きく分けると、金仏壇と唐木仏壇に区別されます。金仏壇は主な材料に杉材が使われ、漆塗りの上、金箔を貼ったきらびやかな仏壇で、浄土真宗が勧めています。唐木仏壇は使用する木の材質や木目を生かした仏壇。材質は桜、桑、桐などが使われ、黒壇や紫壇を使った最高級品もあります。それぞれに大型、中型、小型があり、近年ではたんすの上に置くような上置きタイプや家具調のもの、さらに洋風のリビングルームに調和するようなモダンなデザインの仏壇も登場しています。仏壇の値段はこうした材質やサイズなどによって異なりますが、その他に職人の技術によっても差が生じてきます。 また、仏壇には古くから受け継がれてきた伝統的な技術で知られる名古屋仏壇や三河仏壇のように伝統的工芸品に指定されているものもあります。このような最高級品は数百万円から1千万円を超える仏壇もありますが、大切なことは先祖供養の気持ちですから、無理せず住宅事情や経済事情を考慮して選びたいものです。  
 
 仏壇は基本的に風通しがよく、明るい南向きの部屋に安置するのが望ましいといわれています。それ以外の理由からさまざまな言い伝えがあります。西を背に東を向けて置くのは、仏教の理想郷である西方の極楽浄土に手を合わせる「極楽浄土説」。その反対が日が昇る東をめでたい位置として、東を向いて祈りをささげるインドの風習を取り入れた「東面西座説」など。大切な仏壇だからこそ置き場所に気を使いますが、なにより重要なことは毎日手を合わせて礼拝することです。仏間として部屋がなくても、家族が集まりやすく落ち着いてお参りできる部屋ならば、それほど向きにこだわる必要はないようです。
 
   仏壇に安置する位牌は、「札位牌」と「繰り出し位牌」の2種類があります。札位牌は故人一人ひとりの独立した位牌で、黒塗りや金箔、文字を彫ったり書いたりしたもの、蓮台をつけたり屋根や扉をつけたものなどさまざまなタイプがあります。また、繰り出し位牌は、屋根と扉のついた枠の中に10枚から20枚ほどの板位牌を納めたものです。仏壇が小さい場合や何世代もの祖先の位牌が多くなったときに用いられます。ちなみに、四十九日までは白木の位牌です。これはまだ故人が冥土をさまよい成仏できない時期とされ、四十九日の法要で戒名を書き込んだ黒塗りなどの位牌に変わり、菩提寺の僧侶に入魂供養をしてもらいます。
 
 仏壇にはさまざまな仏具が飾られます。特に花立て、燭台(ローソク立て)、香炉(火をつけて線香をたてる)の3種の仏具は三具足といって必需品とされています。
 また、香炉を中心に花立てと燭台をそれぞれ左右に置く場合は、五具足といいます。その他にも仏飯器(ご飯を供える)、湯茶器(浄水やお茶を供える)、鈴と鈴棒、高杯(菓子や果物を供える)、灯籠などの仏具を揃えます。
 仏壇の飾り方は宗派により異なることもありますが、最上段にご本尊、2段目に位牌、一対になった仏具は左右に置くことは、どの宗派においても基本原則です。
 
 仏壇を新しく購入したときには、僧侶にお経をあげてもらい開眼供養を行います。この儀式は地域によって「入魂式」「お魂入れ」「入仏式」などと呼ばれます。
 
 核家族が増え、仏壇のない家庭が多くなった現在では、仏壇のお参りの仕方がわからないという場合もあるようです。
 仏壇の毎日の供養は、朝の洗面を済ませてから仏壇に灯明をともし、線香に火をつけます。さらに、炊きたての仏飯、生花、浄水を供えます。仏壇の前に正座して鈴をならし、手を合わせて「南無阿弥陀仏」や「南無妙法蓮華経」などのお経を唱え、鈴をならします。仏飯などは昼食の前に下げます。花の水は毎日取り替え、絶やさないようにします。また、到来ものや季節の初物は仏前に供えてからいただくようにします。盆、彼岸、命日には故人の好物を供えます。
 仏壇の掃除や手入れはこまめに行い、いつもきれいにしておくことを心掛けたいものです。
 
宗  派 本  尊 開  祖 供  養 戒  名
天 台 宗 釈迦牟尼仏
阿弥陀如来、
大日如来、
薬師如来
など
最  澄
(767〜822)
仏、法、僧のために線香を3本たてる。般若心経などのお経を唱える 6文字の場合男性は最後に信士、女性は信女(大姉)、9文字の場合男性は○○院○○○○居士、女性は○○院○○○○大姉
真 言 宗 大日如来 空  海
(774〜835)
線香を3本たてる。お経は般若心経。 天台宗と同じ
浄 土 宗 阿弥陀如来 法然上人
(1133〜1212)
火をつけた線香を2つに折って香炉に入れ合掌するのが正式。「南無阿弥陀仏」を唱える。 6文字の場合男性は○誉○○信士、女性は○誉○○信女(大姉)、9文字の場合男性は○○院○誉○○居士、女性は○○院○誉○○大姉
臨 済 宗 釈迦如来、
大日如来、
阿弥陀仏
など
明庵栄西
(1141〜1215)
線香は1本で焼香も1回。南無妙法蓮華経を唱える。 男性は禅定門、女性は禅定尼という禅宗の戒名
浄土真宗 阿弥陀如来 親  鸞
(1173〜1262)
火をつけた線香を2つに折って香炉に入れ合掌するのが正式。「南無阿弥陀仏」を唱える。 戒名ではなく法名と呼ぶ。男性は3文字で釈○○、女性は4文字で釈尼○○
曹 洞 宗 釈迦牟尼仏 道  元
(1200〜1253)
線香は1本を香炉にたてる。焼香の回数は2回。 6文字の場合は信士・信女、9文字の場合は院と居士・院と大姉
日 蓮 宗 本師釈迦牟尼 日  蓮
(1222〜1282)
「南無妙法連華経」とお題目を繰り返し唱える。 男性は○○院法○日○居士、女性は○○院妙○日○大姉というように、日と法、日と妙をつけるのが法号の特徴